ジープニーのフロントガラスの上の方、日本だと普通に考えればそこに行先が表示してあるはずの場所に、ドライバーの意匠が凝らされている。書かれている言葉も恋人や家族の名前だったり、絵であったり、勝手きままにつけられているポップな文字が、車体のデコレーションとマッチしてジープニーに独自な奇抜さを与えている。100台のジープニーは100台ともデザインが違うのだ。
ジープニーに乗るには単にむこうからやってきた車に向かってタクシーを呼び止めるような感じに手を挙げるだけでいい。ただタクシーとは違って行き先は決っているのだから、フロントガラスの下のほう、申し訳程度についている表示板を素早く確認しパッと手をあげる。ところがその表示板もカレッサ(四輪馬車)のなごりの馬の人形やその他もろもろのド派手な飾りに覆われて見えない事もある。そこはそこ、そんなジープニーに乗れるのは幸運だと思っていい。
朝夕はたいへん混んでいる。混んでいるからといって遠慮はいらない。20人以上は乗れる。それに運転席の横の座席に2人、後ろの乗る時の踏み台に立ったままで2人は乗れるのだ。しかし、朝の都心に出る場合など一向に進まない場合がままある。そんなときは、「パーラン」と言って跳びおりればいい。
さて、ポップな言葉だが「SACRED HEART」「MY SWEETHEART」「PLAY BOY」「SANRIO」「Richard」、諸々の個人名。富士山みたいな絵もあったが、それはピナツボ山だったのだろうと思う。
ジープニーを所有してロードを走る事、それは一種のステータスなのだ。それゆえ家族や恋人の名前を背負ってジープニーはドレスアップされるのだ。
「Meet the Parents」というロバート・デニーロの映画があったが、結婚する相手の「親に会う」という日本語にすれば平凡すぎるタイトルも、英語だと重厚な印象を与える。「Meet the Parents」,なかなか足取り重くなるようなタイトルではないか。映画そのものはスパイばかの親父がでてくるコメディーでつ・ま・ら・な・い。
かつて、ODAかなんかでフィリッピンに産業を起こすための一環としてワニの養殖が計画されたことがあった。南国でもあるし、高級ブランドのワニ皮は高く輸出できるだろう。施設も作られ、ワニも用意されたのであろうが、どういうわけかその計画は頓挫してしまった。施設に残されたワニはどうなったのか。殺されたのか、食べられてしまったのか。くわしい消息はわからない。
逃げたワニもいたかもしれない。そのワニはプロテインで成長した闘鶏を襲い生き延びる。パッシングリバーを下りマニラベイまでたどりつき日本から不法に輸出された医療廃棄ごみをたべながら映画「アリゲーター」のごとくどんどん大きくなっていくのだ。
そして、「おー!スイートハーツ、今日僕はルクサスブルバードでワニとであったよ!」となるのである。
back
|